カレン・リード事件:メディアでの注目と裁判の複雑さ

マサチューセッツ州の殺人裁判の最終弁論が行われる
2025年6月13日、2024年から約1年かけて法廷で争われてきたカレン・リード事件の2度目の裁判の最終弁論が行われ、陪審員の審議がはじまりました。この裁判は、カレン・リード被告がボーイフレンドでボストン警察のジョン・オキーフ氏をSUVで殺害したとして、第2級殺人の罪で起訴され、その真偽が争われてきたものです。リード被告の弁護団は一貫して無罪を主張しており、リード被告は現在保釈中です。
事件の概要
2022年1月28日の夜、リード被告はオキーフ氏と彼の友人の警察官たちとバーで時間を過ごした後、レクサスにオキーフ氏を乗せ、ボストン警察のブライアン・アルバート氏の家まで運転しました。29日深夜、リード被告はオキーフ氏が家に帰らず、携帯電話にも出なかったため、オキーフ氏の友人らと探しに行ったところ、オキーフ氏がアルバート氏の家の外の雪の中で倒れて死亡しているのを発見しました。警察は検死の結果、オキーフ氏の死因は頭部の鈍的衝撃による損傷と低体温症と裁定しました。
裁判の流れと争点
異なる双方の主張
裁判では、検察はリード被告が車中でオキーフ氏と口論後、車外に出ていたオキーフ氏に車を後退させ衝突、雪の中に放置したまま立ち去ったとしてきましたが、リード被告の弁護団はオキーフ氏は車に衝突しておらず、アルバート氏の家の中で警察官らに暴行され、雪の中に放り出され、死亡したと主張しています。
広がる陰謀説
弁護団はさらに、警察はこれを隠蔽するためにリード被告に罪を擦り付けたとしています。この陰謀説はブロガーのエイダン・カーニー氏によって「タートルボーイ」で拡散され、一部の市民がこれを支持、「リード被告を開放せよ」という抗議運動に発展しました。またリード被告の記者会見での発言(陰謀説)や積極的なメディア出演、ニュース番組が連日報じる等で注目を集め、アメリカ国民を巻き込んだ論争へと発展しています。
証拠の信頼性
裁判の争点はオキーフ氏と車の損傷状況の一致性、車に付着していたとされる髪の毛であるDNA証拠の信頼性等です。弁護団はオキーフ氏の損傷状況が6000ポンドの重量がある車の衝突によるものと考えにくい点や、時速約60キロで後退した車に髪の毛が付着している事の不自然さを主張しています。さらに弁護団はオキーフ氏の腕の傷がアルバート氏の飼犬によるものだと主張しました。
また、捜査を担当した警察官の不適切な言動が発覚し、警察官が解雇された事で裁判を一層複雑にしました。そして、検察側の証言台に立った被害者の友人や親族への誹謗中傷、除雪車の運転手の証言への影響(運転手は当時アルバート氏の家の付近に遺体を見なかったと証言)等の懸念事項に関して、キャノン判事は度々警告を発していました。裁判では、キャノン判事と弁護団が激しく衝突するシーンも見られました。
審議の行方
最終弁論を終えた今、これまで、リード被告の弁護団はSUVの動作に焦点を当て、様々な仮説を展開しましたが、事件当時のオキーフ氏の友人が「寒さの中で死ぬのにどれくらいの時間かかるか」とGoogle検索をしていた事や現場に駆け付けた救命士がパニック状態のリード被告が「彼を殴った」と繰り返し言うのを聞いたという状況証拠は依然として存在しています。
裁判の社会的影響
この裁判がここまで難航し、陰謀説にまで発展したのは、証言に頼りがちで、監視カメラの映像等の決定的な証拠に欠ける事があると思われます。また、陪審員制度そのもの、弁護団の仮説の取扱いの問題が根底にありそうです。この事案はアメリカ国民の司法や執行機関に向けた期待や不信感、ソーシャルメディア等による世論形成の裁判への影響を浮き彫りにした典型例となっています。
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