オリヴィア・ロドリゴ:音楽を超えた社会的影響力

オリヴィア・ロドリゴ:音楽を超えた社会的影響力
Portrait of Olivia Rodrigo

オリヴィア・ロドリゴ、中絶の権利に情熱を注ぐ

プランド・ペアレントフッド主催「Champion of Change賞」を受賞

2025年4月27日、オリヴィア・ロドリゴはニューヨーク市で開催されたプランド・ペアレントフッド※1) のSpring Into Action Galaで「Champion of Change賞」を受賞しました。ロドリゴはスピーチで、リプロダクティブ・フリーダム(生殖に関する自由)の重要性を強調し、特に若い女性たちが夢を追う権利を守る必要性について語りました。また、自身が設立した「Fund 4 Good」※2)についても触れ、この基金を通じて200万ドル以上をリプロダクティブ・フリーダムや女子教育、ジェンダーに基づく暴力の防止に寄付したことを誇りに思うと述べました。

Olivia Rodrigo Delivers Powerful Speech on Reproductive Rights
“We can be scared, we can be angry, we can feel hopeless,” she said.

受賞の背景

2022年最高裁の判決を批判

2022年6月27日、オリヴィア・ロドリゴは、アメリカで中絶の権利を制限する動きに対して強い反対を表明しています。2022年、アメリカ連邦最高裁が「ロー対ウェイド判決」※3)を覆した際、ロドリゴはイギリスのグラストンベリーフェスティバルでリリー・アレンと共演し、判決に賛成した判事たちを名指しで批判しました。このパフォーマンスでは、リリー・アレンの楽曲「F**k You」を披露し、女性の権利を守る重要性を訴えました。

ワールドツアーでの避妊用品配布活動

2024年3月12日、中絶が禁止されているミズーリ州のセントルイスで行われた『GUTS』ワールドツアー公演中、ロドリゴは中絶擁護団体「ミズーリ州人工妊娠中絶基金」と協力し、来場者にコンドームや緊急避妊薬(アフターピル)を無料配布しました。なお、アフターピルは妊娠を防ぐための緊急避妊薬であり、中絶を行う薬ではありません。この活動は、リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)を支援する彼女の取り組みの一環として行われました。

活動の影響と議論

ロドリゴの行動は主にリベラル派から称賛された一方、ミズーリ州上院議員ビル・アイゲル氏など保守派からは強い反発を受けました。また、未成年の娘を持つ親からは、子供たちが音楽イベントで自由を謳歌し避妊用品を持ち帰る事への批判が寄せられました。

Shut up and sing: Olivia Rodrigo should stop promoting abortion
By handing out contraceptives at her concerts and donating money to abortion advocacy, Rodrigo is injecting herself into a debate she has no place in.

当初、ロドリゴのマネージメントはこの活動の継続を計画していましたが、政治的な圧力を受けて中止を決定。2024年3月15日のミネソタ州セントポールでの公演以降、避妊用品の配布を中止し、バッジやステッカー等が配布される形となりました。

Olivia Rodrigo’s Management Bans Abortion Funds From Distributing Contraceptives on Guts Tour
Abortion funds invited to hand out supplies such as condoms and emergency contraception at shows must stand down, Rodrigo’s team reportedly said

オリヴィア・ロドリゴの活動が描く未来

オリヴィア・ロドリゴは、ツアー収益の一部を中絶の権利を守る団体に寄付するなど、音楽を超えた社会的活動を展開しています。彼女の行動はソーシャルメディアを通じて広がり、多くの支持を集める一方で議論も引き起こしています。若いアーティストとして政治的・社会的問題に積極的に関与する彼女の姿勢は、多くの人々にインスピレーションを与えています。アメリカ社会における中絶問題の複雑さに向き合い続ける彼女の声が、今後の議論や政策にどのような影響を与えるのか、引き続き注目されます。

注釈

※1) プランド・ペアレントフッド(Planned Parenthood Federation of America, Inc./ PPFA/ Planned Parenthood)

アメリカ合衆国を拠点とする非営利団体で、リプロダクティブ・ヘルス(生殖医療)と性教育の提供を目的としています。1916年にマーガレット・サンガーによって設立され、避妊や家族計画の普及を推進してきました。この組織は、人工妊娠中絶、避妊薬の処方、性感染症の検査・治療、性教育などのサービスを提供し、特に低所得者層への医療支援を行っています。また、国際家族計画連盟(IPPF)の加盟団体として、世界各国でも活動を展開しています。

※2) 「Fund 4 Good」

2024年2月23日、オリヴィア・ロドリゴは『GUTS』ワールドツアーのキックオフに合わせて、「Fund 4 Good」というプロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトでは、全国中絶基金ネットワーク(National Network of Abortion Funds, NNAF)と連携し、ツアーの収益の一部が「Fund 4 Good」に寄付される仕組みとなっています。また、「Fund 4 Good」を通じてリプロダクティブ・ライツの保護や女性の教育支援など、社会的に重要な分野への寄付が行われています。

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※3) ロー対ウェイド判決(Roe v. Wade)

1973年にアメリカ合衆国最高裁判所が下した歴史的な判決で、女性の妊娠中絶の権利を憲法上のプライバシー権の一部として認めたものです。この判決により、妊娠初期の中絶が全米で合法化されました。この裁判で最高裁は妊娠中絶を禁止する州法は憲法修正第14条の「適正な手続き」を受ける権利を侵害していると判断し、妊娠を三つの段階(トライメスター)に分け、それぞれの段階で州が中絶を規制する権限を異なる形で認めました。しかし、1992年の「プランド・ペアレントフッド対ケイシー事件」ではロー対ウェイド判決の枠組みが修正され、州が中絶を規制する権限が拡大、さらに2022年には「ドブス対ジャクソン女性健康機構事件」でロー対ウェイド判決が覆され、多くの州で中絶が厳しく制限されるようになりました。

参考

オリヴィア・ロドリゴ(Olivia Isabel Rodrigo)

アメリカ合衆国のシンガーソングライター、俳優。2003年2月20日カリフォルニア州ムリータ生まれ。彼女はディズニー・チャンネルのドラマで注目を集めた後、2021年にリリースしたデビューアルバム『SOUR』で世界的な成功を収めました。このアルバムは「drivers license」「good 4 u」「deja vu」などのヒット曲が収録されており、ビルボード5週間連続1位となり、音楽評論家からその歌詞と歌声が高く評価されました。ロドリゴは『SOUR』で、2022年グラミー賞の最優秀新人賞ほか合計3部門で受賞を果たしています。そして、2023年にはセカンドアルバム『GUTS』がリリースされ、ビルボード初登場1位、収録シングル「vampire」がビルボードをはじめ各国のヒットチャートで1位を獲得しました。また『GUTS』を引っさげたワールドツアーも開始し、彼女の音楽的成長と社会的活動が注目されました。日本公演は2024年9月27-28日に東京の有明アリーナで開催され初来日公演として大きな話題を呼びました。公演では『vampire』など『GUTS』の楽曲を中心に他の代表曲も披露され、日本のファンを魅了しました。