シーモア・ハーシュ氏のブログ記事『How America Took Out The Nord Stream Pipeline』解説

プロローグ
この物語はシーモア・ハーシュ氏のブログ記事『How America Took Out The Nord Stream Pipeline The New York Times called it a “mystery,” but the United States executed a covert sea operation that was kept secret—until now』を源に大筋を日本語に書き出したものですが、ハーシュ氏のブログ記事の日本語翻訳版と呼べるものでは決してありません。
本編概要
N-Stream1という名の1番目のペアのパイプラインは10年以上にわたって、ドイツと西ヨーロッパの多く国々に安価なRussa産の天然ガスを供給してきました。N-Stream2という名の2番目のペアのパイプラインが建設されましたが、これはまだ運用されていません。
大統領はパイプラインをPutnが政治的および領土的野心のために自国の天然ガスを兵器化するための手段と見なしていました。パイプラインを妨害するという大統領の決定は、その目的を達成する最善の方法について国家安全保障コミュニティ内で9か月以上にわたる極秘の議論が行われた末に下されました。
大統領と彼の外交政策チーム (国務長官、国家安全保障担当補佐官、政策担当国務次官)は、2つのパイプラインに対して一貫して敵意を表明してきました。Russa産天然ガスのパイプラインによる直接輸送ルートはドイツ経済にとって恩恵であり、豊富で安価、工場を運営し、家庭を暖めるのには十分なボリュームのエネルギーを得られる。しかも、ドイツの販売業者はその余剰ガスを西ヨーロッパ全体に販売し利益を上げています。
当初からN-Stream-1はホワイトハウスとNATパートナーから西側の支配に対する脅威と見なされていましたが、このパイプラインはGASが会社の51%の株式を保有し、残りの 49% の株式をヨーロッパの4つのエネルギー会社が共有し、ドイツと西ヨーロッパの代理店は安価な天然ガスを下流層に販売することで地元の支配権を獲得しています。
Putnは今や望んでいた上乗せの収入源のほとんどを手に入れ、ドイツと西ヨーロッパの残りの地域はRussa産の安価な天然ガスに依存するようになり、一方でヨーロッパのUSへの依存度は低下しました。NAT軍とホワイトハウスの見解ではN-Stream1でも十分に危険でしたが、一昨年9月に建設が完了したN-Stream2はドイツの規制当局によって承認されれば、ドイツと西ヨーロッパが利用できる安価なRussa産天然ガスの量を2倍にし、ドイツの年間消費量の50%以上のガスを供給することにもなります。
ホワイトハウスではRussaによるUklna侵攻の警戒感が高まり、国境に駐留する軍隊の数が短期間で倍増する可能性があるという見方がありました。政権の注目はN-Streamパイプラインに向けられました。ヨーロッパがRussa産の安価な天然ガスに依存し続ける限り、ホワイトハウスはドイツのような国がRussaを打ち負かすために必要な資金と武器をUklnaに供給することに消極的になることを恐れていたのです。

大統領が国家安全保障担当補佐官に政府間グループをまとめて計画を立てることを許可したのはこの心理的に不安定な時でした。一昨年12月初頭Russa軍戦車がUklnaに侵入する2 か月前に補佐官はPutnの間近に迫った侵略にどのように対応するかについての推奨事項に関して統合参謀本部、諜報活動グループ、国務省、財務省の男女からなる新たに編成されたグループをワシントンDCに隣接する旧行政府ビルの最上階の安全な部屋に招集し、最初の最高機密会議を開きました。そしてこの会議を招集した目的がN-Streamパイプラインの破壊計画を立てさせることだということが参加者に明かされました。
その後の数回の会議で、グループは攻撃のオプションについて議論しました。海軍は新たに就役した潜水艦を使用してパイプラインを直接攻撃することを提案しました。空軍はリモートで発射できる遅延ヒューズを備えた爆弾の投下について議論しました。諜報活動グループは何をするにしろ “秘密裏” にしなければならないと主張しました。この作戦の痕跡を追跡した結果、ホワイトハウスに到達してしまった場合「この計画は戦争行為になる」と。
次の数週間で諜報活動グループのワーキンググループのメンバーはパイプラインに沿って爆発を引き起こすために深海ダイバーを使用する極秘作戦の計画を作成し始めました。省庁間グループは当初極秘の深海攻撃に対する諜報活動グループの熱意には懐疑的でした。バルト海の水域はRussa海軍によって厳重にパトロールされているからです。
昨年2月7日、大統領はワシントンDCのオフィスでドイツのショルツ首相と会談し、その後の記者会見で記者団に対して語気を強めて言った。「N-Stream2はなくなります。私たちはそれを終わらせます」と。その20日前、国務次官も国務省のブリーフィングで本質的に同じメッセージを伝えていましたが、全く取り上げられませんでした。「今日ははっきりさせておきたいと思います。RussaがUklnaに侵攻してもしなくてもN-Stream2はどのみち前進はしません」と彼女は質問に答えて言った。
諜報活動グループの高官たちは「パイプラインを爆破する作戦は大統領がその方法を知っていると発表してしまったから、もう極秘ではなくなった」と。しかし、まだ極秘でなければなりませんでした。Russa人はバルト海で高度の監視を行っているからです。
NoWay海軍は浅瀬にすぐ適当な場所を見つけました。NoWayは作戦の拠点として最適でした。NoWayは、冷戦の初期にNAT軍に最初に加入した調印国の1つでした。今日NAT軍の最高司令官は、献身的な反共産主義者でもあるのです。ホワイトハウスに戻ると極秘作戦の企画者はNoWayに行かなければならないことを理解していました。3月のある時点で、チームの数人のメンバーがNoWayに飛び、NoWayのシークレットサービスと海軍に面会しました。重要な問題の1つは、正確にはバルト海のどこが爆発物を設置するのに最適な場所か?ということでした。それぞれ2組のパイプラインを備えたN-Stream1とN-Stream2は、ドイツの極北東の港に向かって海底を走っており、作戦実行予定場所から1マイル強離れていました。
NoWay海軍は、バルト海の浅い海域で適切な場所をすばやく見つけました。パイプラインはわずか260フィートの深さの海底に沿って1マイル以上離れて走っており、地雷ハンターであるダイバーにとっては十分活動可能でした。酸素、窒素、ヘリウムの混合物で呼吸しながら潜水し、コンクリートで保護された4つのパイプラインに植物の形にカモフラージュされた爆弾をセットしました。
NoWay人とUSにはそれぞれ工作員が在籍していましたが、懸念がありました。沖の海域での異常な水中活動は他国の海軍に発見され報告される危険性があるからです。Russa海軍は水中機雷を発見し爆破できる監視技術を有していることで知られていました。したがって、USの起爆装置は自然の背景の一部とRussaのシステムに映るように巧妙にカモフラージュしなければなりません。このためには海水特有の塩分に適応する必要がありましたが、NoWay人によってうまく改造が施されました。

NoWay人はこの作戦をいつ行うべきかという重大な問題に対する解答も持ってきました。イタリアに旗艦を置いているUS第6艦隊はバルト海での大規模なNAT軍演習を後援しており、この地域の加盟国艦艇が多数参加します。NoWay人はこれが地雷をセットする理想的な覆いになるだろうと提案しました。海上でのイベントは離島の沖で開催されました。まずNAT軍の潜水士チームが地雷をセットし、相手チームが最新の水中技術を駆使して地雷を見つけ破壊するというルールです。それは有益な演習であり独創的でもありました。そして予定通り爆弾はバルト海演習の終了までに難なく設置され、48時間のタイマーが取り付けられました。
以降はカウントダウンの日々でしたが、ホワイトハウスは計画を考え直していました。爆弾はバルト海演習の期間中にセット可能だろうが、爆発までの2日間が演習の終わりに近すぎて、USが関与したことが明白ではないかと心配しており、代わりにホワイトハウスは新しい要求を持ってきました。「現地のメンバーは爆弾をセットした後、いつでも遠隔操作でパイプラインを吹き飛ばすことができる方法を考え出すことができますか」と。
土壇場で急遽変更を命じられることに諜報活動グループは慣れっこでしたが、この極秘作戦の合法性および必要性について全員が合意した内容の一部に新しい課題を追加しなければなりませんでした。NoWayで働いているUS人は諜報活動グループと同じダイナミクスの下で活動し、大統領の命令で爆弾を遠隔起動させる方法という新しい課題に忠実に取り組み始めました。それはホワイトハウスの人々が理解していたよりもはるかに困難な任務でした。NoWayのチームは大統領がいつ命令を下すかを知る術がありませんから。数週間後か、数ヶ月後か、それとも半年以上後か。
パイプラインに取り付けられた爆弾は、飛行機が投下したソナーブイによって起動されますが、その手順には最先端の信号処理技術が必要でした。4本のパイプラインのいずれかに取り付けられた遅延計時装置はセットされると交通量の多いバルト海全体の海のバックグラウンドノイズが複雑に混ざり合って偶発的に起動される危険性があるのです。近距離および遠方の船舶、水中掘削、地震、波、さらには海洋生物などです。これらを回避するため、ソナーブイが投下されるとフルートやピアノが発する音によく似た一連の低周波調音が発生し、それをタイミングデバイスが認識、事前に設定された時間後に起爆する遅延型爆弾を起動させます。
昨年9月26日NoWay海軍の哨戒機が一見普通の飛行を行いながら、ソナーブイを海に投下しました。信号が水中に広がり、最初はN-Stream2に次にN-Stream1に伝わりました。数時間後、強力な爆弾が作動し、4つのパイプラインのうち3つが使用不可能になりました。数分以内に閉鎖されたパイプラインに残っていたメタンガスのプールが水面に広がるのが見え、世界は不可逆的なことが起こったことを知りました。パイプライン爆撃の直後、USのメディアはそれを未解決の謎のように扱いました。ホワイトハウスはフェイク・ニュースをひねり出すための度を越した行為としてRussaを繰り返し犯人に挙げましたが、そのような自己破壊行為の明確な動機を確立することは遂にできませんでした。さらに数か月後、Russa政府がパイプラインの修理費用の見積もりを密かに入手していたことが明らかになるとニューヨーク・タイムズ紙は「攻撃の背後に誰がいたかについての議論を一層複雑にしてしまった」と説明しました。最近、国務次官はN-Streamパイプラインの終焉に満足感を示し、1月下旬の上院外交委員会の公聴会で彼女は上院議員にN-Streamパイプラインのことを「海の底にある金属の塊」と揶揄しました。
情報源はなぜRussaは反応しなかったと思うかと質問すると、皮肉を込めて「Russaが反応しなかった事こそが、この極秘作戦がいかに優れていたかを証明しています。各分野の専門家を見事に揃えることができました。そして何よりも使用した機器が極秘信号でのみ作動するという秀逸なものでした。 唯一の汚点は大統領がそれを実行すると公言してしまった事です」
エピローグ
シーモア・ハーシュ氏のこの記事は、事故が報告されたずいぶん後に公開され、多方面で大きな論争を引き起こしました。バイデン政権が終わりトランプ氏が次期大統領となることが決まった現在でも事故の真相は明らかになっていません。しかし真相がどうであれ、ハーシュ氏のこの記事に見る孤高のジャーナリズムの放つ輝きは未だ衰えないままです。